試験勉強に追われ、ぼおっと携帯電話を眺めていた。そこには先日撮ったばかりの一枚の写真が映し出されていた。
成人式の日、高校時代付き合っていた人と久しぶりに会った。今も忘れぬ一昨年の春、僕は大学受験に失敗した。彼女は推薦で関西の大学に進学することが決まっており、どの道ここで別れることはお互いの暗黙の既定事項であった。尤も、それは今付け加えた僕なりの「見栄」だ。当時は、少なくとも僕は、別れることなんて想像もしていなかった。自分も大学に受かり、東京と関西で遠距離でもなんとかやっていこうと高校生なりに考えていた。しかし、華やかなひとり暮らしの大学生活を送る中で過去の影はどんどんなりをひそめていったのだろう。約半年後の夏、帰省中の彼女に偶然再会し、「もう会えない」と切り出された。そんなことだろうと薄々気づいてはいたし、第一そんなことに靡いているひまはなかった。今思えばこれもただの強がりだ。その翌年の春、僕は高校時代からの第一志望に合格した。大学に入り、今の恋人と出会い、あっという間に恋愛関係になった。彼女は僕の心の隙間を埋め、いつの間にか僕の全てになっていった。常に彼女のことばかり考えるようになり、かつての恋人はほとんど消えていった。1年前の彼女もきっとこんな感覚だったのだろう。だけど、それでも僕の中には得も言われぬ気持ち悪さが残っていた。
晴れの日の振り袖姿のかつての恋人はとてもきれいだった。「ひさしぶり、写真撮ろうよ。」そう言うのが精いっぱいだった。心の中では震えていた。自分のことをどう思っているのだろうか。あまり考えたくはない、過去の美談で済ませたい、彼女の口からは何も聞きたくなかった。それをわかってか、彼女は何も言わず、あの時と同じ笑顔で僕の誘いを受けてくれた。もしかしたら、彼女にも気まずさというものがあったのだろうか。約束を守れなかったことに対する罪悪感、――いや、元からそんなものはなかったのかも――今となっては何もわからないし、わかりたくもない。
二人ぎこちなくピースサインをした写真。それを見て、心のどこかに引っかかる「気持ち悪さ」は風船のように飛んで行った。彼女との思い出をそっと心にしまい、明日に向かって歩いていこう。ありがとう。