懐疑的恋愛

「彼女欲しい」と念仏のように四六時中唱えている人がいるけど、男女交際っていうのは非常に難しい問題だ。恋に落ちた最初の頃は事の重大性には気付かない。個人差にもよるが、長く付き合っていると、必ず相手を思う気持ちに変化が訪れることがある。基本的に「好き」という気持ちに変わりはなくても、「どう好きか」というのが変わる。盲目的に好きな時期があって、慈悲的に好きな時期がある。そして懐疑的に好きな時期がある。どうして自分はあの人のことを好きなのか。そういう時期になるととめどない。本当にあの人に自分は必要な人間なのか。実は彼女にはもっと話の合う、それでいて勤勉で知的で魅力的な男性がいるのではないか。このまま彼女と関わっていても無為に時間を過ごさせてしまうのではないか。だったらその「いるかいないかもわからない俺より彼女に相応しい彼」に彼女を譲るべきなのではないか。おれと一緒にいることが彼女を堕落させてしまうのではないか、可能性を奪ってしまうのではないか。そもそもこんなことを考えてしまう自分に彼女を好きでいる資格があるのか。溢れ出した疑問はとどまるところを知らない。そうなると彼女の笑顔が全部ウソに見えてくる。全ては自分の情けなさ・無力さに端を発しているのに。自分には異性を幸せにする資格も能力もない。こんな人間はひとりでうんうん唸っている方がより生産的なのではないか。彼女からの連絡が少しでも途絶えれば、「ああ、やっぱりそうだったのか。」と。盲目的に好きでいられる時期は本当に楽しい。何をやっても楽しいし、何もしなくても楽しい。ただいつまでもそんな時期が続くはずはないし、だけど、またやってくるかもしれない。そう信じるしかない。それがいけない、とわかっていながら、今日もまた無為に1日を浪費することしかできない自分が恨めしい。