エウリピデスよりもソフォクレスの方がお好き

「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。」
まぁなんというかこの物語はおもしろかったですよ。とても胡散臭い感想になってしまいますけど。まず読み終えての率直な感想を言うと「報われた」かな。読者(こんな考えは僕くらいでしょうけど)あるいは著者のレイコに対する思い。作中で「僕」と緑が出会ったのは演劇史Ⅱ。エウリピデス。また,「僕」は緑の父親にエウリピデスよりソフォクレスが好きと言った。そして「僕」は平凡な家庭に育ったということを強調した。物語の途中から、読者としての僕の懸案はレイコさんとセックスをすることでした。作中、一番僕が欲情したのは直子でも緑でもなくレイコさんだった。それは僕の趣味とかではなく、意図的にそう書いた、んじゃないかな。レイコさんとセックスしてもいいような場面はいくつかあったはずだけど、結局最後まで引っ張って最後にヤッた。

「ねぇ、ワタナベ君、私とあれやろうよ」
「不思議ですね。僕も同じこと考えてたんです。」

このやりとりのあとの数ページは個人的には全体で一番盛り上がっていた。概括してみると、直子は死者であるキズキを想い、ワタナベ君は直子を想い、緑はワタナベ君を想い…。誰一人その想いが報われた人はいなかった。そして最後に読者(すみません僕だけですw)のレイコさんへの想いが報われたのである。100%の恋愛小説、というコピーがこの物語にふさわしいかどうかはわからない。それは世の中が決めることであって、僕は知らない。ただ僕は疑問を抱かざるをえなかった。冒頭に述べたキズキくんのフレーズを太字とかにしちゃって、テレカクシをしたのでは、なんていう春樹に対する懐疑を持って読了した。しかし、僕もこうしてあまたある春樹ファンの一人になったことは間違いないのである。